• 6月 18, 2025

脂質異常症と慢性腎臓病の危険な関係──動脈硬化による合併症に要注意

はじめに

健康診断での「LDLコレステロールが高い」「クレアチニンが高い」「eGFR(推算糸球体濾過量)が低い」という指摘。これらが同時に現れると、動脈硬化を通じた重篤な合併症(心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患)のリスクが急激に高まります。本記事では、最新ガイドラインや医学研究を引用しつつ、両者の深い関連性を解説します。


1. 脂質異常症とは何か?

脂質異常症は以下のように定義されます:

  • LDLコレステロール(いわゆる「悪玉」):140 mg/dL以上
  • HDLコレステロール(「善玉」):40 mg/dL未満
  • 中性脂肪:150 mg/dL以上

厚生労働省と日本動脈硬化学会による「脂質異常症診療ガイドライン2022(日本動脈硬化学会)¹⁾」では、これらの異常値が動脈硬化の主要因であると明記されています¹⁾。


2. CKD(慢性腎臓病)とは?

CKDは「eGFRが60未満あるいは、蛋白尿などの尿検査異常等が、いずれか同時に3ヶ月以上持続する状態」です(KDIGO 2023 Clinical Practice Guideline; KDIGO, 2023(²⁾))。高血圧と糖尿病などの「生活習慣病」が原因の場合があり、進行すれば透析に至る可能性があります。


3. CKD患者で動脈硬化が進行しやすい背景

腎機能低下はカルシウム・リン代謝や慢性炎症を誘発し、血管内皮障害および血管石灰化を促進すると言われています(London GM et al., “Cardiovascular risk in chronic kidney disease”, Kidney Int., 2003³⁾)。このため、CKD患者では心筋梗塞・脳卒中・末梢動脈疾患(PAD)のリスクが高まります。

「CKD患者の血管は“全身の傷ついたインフラ”のようなもの」³⁾という表現が印象的です。


4. 両者が互いに影響し合うメカニズム

4.1 脂質異常症がCKDを悪化させる

高LDLや中性脂肪の増加は、腎臓の糸球体を傷つける原因になります。Go AS et al.(2012)による研究⁴⁾では、「脂質異常症はCKD発症リスクを独立して高める」と報告されています。

4.2 CKDによる「脂質異常症」

腎機能が低下すると、

  • HDLコレステロールが低下
  • 酸化LDLが増加
  • アポリポタンパク質の異常変性

という独自の脂質代謝異常「腎性脂質異常症」が生じ、動脈硬化を促進するという説があります(Vaziri ND., 2006⁶⁾)。

「CKDは“脂質代謝の地雷原”を作る」とも評されます⁶⁾。


5. 動脈硬化合併症のリスク上昇

脂質異常症+CKDがあると、以下のようにリスクが顕著に高まります:

  • 心筋梗塞:CKD患者の死亡原因の約40%が心血管疾患(USRDS 2023 Annual Data Report⁸⁾)。
  • 脳卒中:CKDでは脳卒中全体のリスクが2倍以上に。ラクナ梗塞や出血性脳卒中のリスクも増**(Toyoda K et al., 2014)⁹⁾**。
  • 末梢動脈疾患(PAD):足壊疽につながることもあります(O’Hare AM et al., 2006¹⁰⁾)。

**eGFR < 30 mL/min/1.73 ㎡**になると、これら疾患のリスクはさらに2~3倍に跳ね上がります(Muntner P et al., 2010¹¹⁾)。

<CKDステージ別にみた動脈硬化性合併症のリスク>

CKDはeGFR(推算糸球体濾過量)の低下に応じて以下の5段階に分類されます:

ステージeGFR(mL/min/1.73㎡)腎機能の状態
G1≧90正常または高値(ただし尿異常あり)
G260〜89軽度低下(尿異常あり)
G3a45〜59軽度〜中等度低下
G3b30〜44中等度〜高度低下
G415〜29高度低下
G5<15(または透析)末期腎不全(透析療法対象)

このステージが進むごとに、動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳卒中、PADなど)のリスクも上昇します。

◆ ステージG1〜G2

  • 一見、腎機能は正常に見えますが、蛋白尿が持続しているケースでは早期から動脈硬化性変化が始まると報告されています(Sarnak et al., 2003¹⁹⁾)。
  • 糖尿病や高血圧など他のリスク因子があれば、心血管イベントリスクはすでに上昇します。

◆ ステージG3a〜G3b(中等度CKD)

  • この段階から有意な心血管リスク上昇が始まることが、複数の研究で示されています(Muntner et al., 2010¹¹⁾、Go et al., 2012⁴⁾)。
  • SHARP試験でも、GFRが60未満の非透析患者でスタチンが有効であったのはこのステージが主対象でした(Baigent et al., 2011¹⁴⁾)。

◆ ステージG4(高度CKD)

  • 心血管疾患による死亡率が特に高まる段階。
  • 酸化LDLやリポ蛋白(a)の異常、血管石灰化が顕著になり、心不全・虚血性心疾患・突然死のリスクが急上昇します(Vaziri ND, 2006⁶⁾)。

◆ ステージG5(末期腎不全/透析)

  • 透析患者では、心血管死が全死因の50%以上を占めることが知られています(USRDS Annual Report, 2023⁸⁾)。
  • スタチンの効果が限定的であることからも、この段階では不可逆的な血管障害が進行していると考えられます(Wanner et al., 2005¹⁵⁾)。

6. 予防・治療に向けた管理策

6.1 食事療法のポイント

  • 飽和脂肪酸(肉の脂・バターなど)の制限
  • n‑3系脂肪酸(青魚・亜麻仁油)の積極摂取
  • 水溶性食物繊維(野菜・海藻・豆類)によるLDL低下効果(Rasic‑Milutinovic Z et al., 2015¹²⁾)

CKDのステージによっては蛋白摂取量の調整が不可欠ですが、脂質改善も並行して行います。

6.2 薬物療法:スタチンなど

  • **SHARP試験(Baigent C et al., Lancet, 2011)**¹⁴⁾:スタチン+エゼチミブ併用により心血管イベントが25%減。
  • **4D試験(Wanner C et al., N Engl J Med., 2005)**¹⁵⁾:透析患者ではアトルバスタチンのみの効果は限定的。

日本腎臓学会「CKD診療ガイド2020(日本腎臓学会)¹³⁾」やKDIGO 2021年「脂質管理ガイドライン(KDIGO Lipid Management Guideline, 2021)¹⁶⁾」では、透析前CKD患者へのスタチン使用を強く推奨しています。


7. スクリーニングとモニタリング

  • CKD患者では**年1回以上の脂質プロファイル検査(LDL-C、HDL-C、TG)**を行うべきです(日本動脈硬化学会ガイドライン2022¹⁷⁾)。
  • 冠動脈CT、頸動脈エコーによる動脈硬化評価も推奨(Kawamoto R et al., Clin Interv Aging, 2012¹⁸⁾)。

8. ライフスタイルの包括的改善

  • 禁煙:喫煙は動脈硬化を加速します。
  • 運動:週150分の有酸素運動が勧められます**(WHO, 2021)¹⁹⁾**。
  • 適正体重の維持:肥満はこれら疾患のリスク追加要因です。
  • 自己管理:血圧・HbA1c・体重のセルフモニタリングが自己効力感を高めます。

9. 実際の臨床エビデンスと今後の展望

CKD臨床においては、Sarnak MJ et al., Circulation, 2003²⁰⁾などが示すように、「心血管死を避けるには、腎臓と脂質の両面から手を打つ必要がある」と理解されつつあります。

今後も、慢性腎臓病に関わる脂質異常症のメカニズム解明新薬の開発が期待されます。


10. まとめ

  1. 脂質異常症とCKDは相乗的に動脈硬化を悪化させる
  2. 心筋梗塞・脳卒中・PADのリスクはGFR低下と共に増大する
  3. 管理には食事・運動・禁煙・薬物(特にスタチン)をセットで
  4. 定期検診・画像評価・自己管理により、重篤合併症を未然に防げる

結果を求めるには、医療者と患者の連携によるライフスタイル改善と適切な薬物併用の継続が鍵です。


参考文献

  1. 日本動脈硬化学会. 脂質異常症診療ガイドライン2022.
  2. KDIGO Lipid Management Guideline Work Group. KDIGO 2021 Lipid Management in CKD, 2021.
  3. London GM, et al. Cardiovascular risk in chronic kidney disease, Kidney Int., 2003.
  4. Go AS, et al. Chronic kidney disease and the risk of cardiovascular disease, N Engl J Med., 2012.
  5. Attman PO, et al. Lipid abnormalities in CKD, Am J Kidney Dis., 1999.
  6. Vaziri ND. Dyslipidemia of chronic renal failure: mechanisms and consequences, Am J Physiol Renal Physiol., 2006.
  7. Kwan BC, et al. Lipid metabolism in predialysis CKD, Nephrol Dial Transplant., 2007.
  8. USRDS. 2023 Annual Data Report.
  9. Toyoda K, et al. Stroke risk in CKD patients, J Stroke Cerebrovasc Dis., 2014.
  10. O’Hare AM, et al. Peripheral arterial disease in CKD, J Am Soc Nephrol., 2006.
  11. Muntner P, et al. CKD and cardiovascular disease risk, Arch Intern Med., 2010.
  12. Rasic-Milutinovic Z, et al. Dietary fiber and lipid profiles in CKD, Nutr Res., 2015.
  13. 日本腎臓学会. CKD診療ガイド2020.
  14. Baigent C, et al. SHARP trial: simvastatin + ezetimibe in CKD, Lancet, 2011.
  15. Wanner C, et al. 4D study: atorvastatin in dialysis, N Engl J Med., 2005.
  16. KDIGO Lipid Management Guideline Work Group. KDIGO 2021 Lipid Management in CKD, 2021.
  17. 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022.
  18. Kawamoto R, et al. Imaging atherosclerosis in CKD, Clin Interv Aging, 2012.
  19. WHO. Cardiovascular Disease Risk Factors, 2021.
  20. Sarnak MJ, et al. Kidney disease as a risk factor for cardiovascular mortality, Circulation, 2003.

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