慢性腎臓病(CKD)とは

慢性腎臓病(CKD)とは

慢性腎臓病は、長期間にわたって徐々に進行・悪化する腎臓の機能障害です。英語名の頭文字をとり、「CKD(Chronic Kidney Disease)」とも呼ばれています。2002年以降、米国を筆頭にして世界的にCKDの詳細なステージ分類が広まり、日本でもかつてのような「慢性腎不全」 と呼称する機会は減ってきました。ステージG3a(推算糸球体濾過量 estimated glomerular filtration rate : eGFR 60mL/分/1.73㎡未満)以降が、将来の透析導入リスクにもつながり、臨床的に大きな課題となっています。

早期治療開始が重要です

CKDはなによりも早期発見と、最新の重症度分類による早期治療開始が重要です。糖尿病とそれ以外では蛋白尿の区分が異なりますが、尿蛋白の増加とeGFRの低下がともに進むと、CKDステージも順次悪化していきます。

ハザードマップ(日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023)によれば、CKDの重症度は「死亡、末期腎不全、心血管死」のリスクと明確に関連しているので、「自覚症状が無いからCKDは気にしない」という判断は危ういものがあります。

最近では、糖尿病薬から慢性心不全薬も兼ねるようになったSGLT-2阻害薬の一部が、非糖尿病CKDに対しても腎保護効果が明らかとなり、日本で慢性腎臓病についても効能効果追加を得ています。ただし、末期腎不全(CKD G5および透析施行中)の症例には認められていません。

慢性腎臓病が進行すると

腎臓は生体の恒常性維持に必須の機能を担っています。つまり、体内の老廃物や余分な水分を常時除去し、血圧や電解質のバランスを調整する重要な役割を果たしています。CKDの原因疾患は数多くありますが、加齢現象でも悪化するために、腎臓の機能が年あるいは月単位で徐々に低下し、最終的には透析導入や腎移植の必要性が生じることもあります。つまり、腎臓そのものが先んじて機能喪失に至ってしまうのです。

とくにG4以降(eGFR15~29ml/分/1.73㎡)の後半で、血液浄化療法が不可避と見込まれると、血液透析ではバスキュラーアクセス手術(内シャントや人工血管留置、動脈表在化のいずれか)や透析用カテーテル挿入を準備せざるを得ない患者さんが増えます。腹膜透析を選択しても、専用のPDカテーテルを局所麻酔あるいは全身麻酔下で埋め込む手術が必要です。

当院では健康診断で指摘される蛋白尿や血尿、eGFR低下(血清クレアチニン値の上昇)をはじめとして、腎機能評価に関わる項目を測定し、"CKDの現在地"を患者さんと共有し、継続的な通院・アドバイスにつなげています。透析専門医としての知見を活かし、将来的な透析予防を図る必要性を強く認識しています。

慢性腎臓病(CKD)の症状

CKDの初期は、ほとんど症状がありません。また腎臓自体に痛覚神経が乏しいため、尿管結石や水腎症の進行などを除くと、痛みによってCKDを自覚する場合はまれと言えます。腎臓表面の皮膜には神経が豊富ですが、この部位だけに病気が発生することは少なく、打撲や転倒による急性血腫などに限られます。

CKD進行に伴う自覚症状は下記が挙げられますが、個人差が大きいため、腎臓内科での客観的な評価が必要です。

  • 尿回数の増加あるいは減少
  • 就寝時間中の頻尿(3回以上)
  • 全身の浮腫(ときに顔や脚全体のむくみ)
  • 回復しにくい疲労感
  • 空腹感の減少を伴う食欲不
  • 慢性的な吐き気や味覚の悪化
  • 短期間での体重増加
  • 持続的あるいは断続的な血尿

など

当院の慢性腎臓病(CKD)の治療・検査

慢性腎臓病は進行性の病気であるため、早期発見と適切な管理が重要です。CKD診断基準では「蛋白尿など腎障害の存在、もしくはeGFR 60mL/分/㎡未満の腎機能低下が3ヶ月以上続くもの 」とされてます。eGFR推算式は日本人のボランティアも含めた実測を行って、作成された式になります。

重症度分類は、原因(C:cause)、GFR(G)、アルブミン尿(A:albuminuria)によるCGA分類が2012年以降は用いられています。また、ご高齢による痩せ(るいそう)などで筋肉量がかなり少ない場合は、筋肉由来の血清クレアチニン値を用いるeGFRではなく、シスタチンCによる推算式からeGFRcysを求める方が有用性は高くなります。

CGA分類では、蛋白尿が多い症例ほど心血管疾患の発症および末期腎不全になってしまう危険性が高いと示されています。「CKDを指摘されたら透析の心配だけでなく、心臓病にもかなり要注意」であると言えます。

一般的な治療目標について

慢性腎臓病の一般的な治療目標は、症状の緩和や進行の遅延、合併症の予防、血圧や血糖の適切な管理などです。また、栄養バランスの良い食事や適切な運動、禁煙などの生活習慣の改善も重要とされています。当院では管理栄養士による外来栄養相談によって、食事療法のアドバイスを行っています。

生活面

1日あたりの食塩摂取量は3g以上6g未満が目標となります。日本人の一般的な摂取量の約半分ですので、かなりの薄味に感じるものです。病棟では「全然味がしないです」と言われる減塩になりますが、味覚の変化によって慣れてくる方が多いと思われます。

蛋白質は栄養源である一方で、CKDでは弱った腎機能をさらに悪化させる要因となります。そのためにステージG3aでは0.8〜1.0g/kg標準体重/日、G3b以降は0.6〜0.8g/kg標準体重/日の蛋白質制限が求められます。肉や魚などの摂取量が、半分から2/3に減った感覚になります。

カロリー摂取は過度の痩せを防ぐためにも重要で、減塩・蛋白質制限を行いつつも、25〜35kcal/kg標準体重/日を維持することを目指します。CKDの食事療法を頑張りすぎて、痩せて筋肉量が減ると、クレアチニンの産生も減って、血液検査が見かけ上、腎機能が改善したようになっていることもあります。

またカリウムは腎排泄が大半のため、ステージG3b以降では2,000mg/日以下、G4以降では1,500mg/日以下を目指して、高カリウム血症を防ぐようにします。生の野菜や果物について、腎臓内科医から制限を伝えられるのは、このためです。血清カリウム値が5.5mEq/Lを上回るようになると、高カリウム性周期性四肢麻痺という脱力や、心室頻拍などの不整脈が出現する危険性があります。症状によっては命に関わるため、日頃からの注意や、定期的な血液検査が重要です。

ウォーキングなどの定期的な運動、禁煙、節酒は腎機能保護に重要とされています。また肥満の持続は、末期腎不全のリスクを高まることが分かっているため、適切な範囲でのダイエットが必要です。

薬物療法

前述のSGLT-2阻害薬だけでなく、CKDにはこの20年以上で積み上げられたエビデンスを持つ降圧剤、腎性貧血治療剤、脂質異常症治療剤などが有効です。各論は複雑ですが、腎臓内科医は年々アップデートされる薬剤を使い分けながら、安全性が高い腎保護治療を目指していきます。