慢性腎炎症候群とは
慢性腎炎症候群とは、蛋白尿や血尿が持続するものであり、無症候性蛋白尿・血尿も含まれます。WHO(世界保健機関)による原発性糸球体疾患の臨床症候分類のひとつで、複数の腎疾患(慢性糸球体腎炎であればIgA腎症 など)が原因となります。「腎炎」という表現では、どの原疾患を指摘しているのか、やや分かりにくいのですが、『蛋白尿、血尿、高血圧を認め、徐々に進行して慢性腎不全に至る疾患』と定義されています。
腎臓には糸球体という毛細血管構造があり、ネフロンという尿生成単位の中では、血液の直接濾過を担っています。この糸球体が慢性的に炎症を起こす疾患は複数あり、自覚症状が乏しいままに進行してしまうことがあります。
また細菌やウイルスの感染症や、一部のアレルギー反応により、免疫系が過剰に反応して、糸球体に免疫複合体が沈着することによっても起こります。遺伝的要因や高血圧、糖尿病などの疾患も発症リスクを高める要素とされています。
精密な検査を行います
職場や学校、自治体の健診で偶然、蛋白尿や血尿を指摘されることがありますが、これは慢性腎炎症候群を早期発見する試みの一環です。(+)や(-)といった定性検査では正確性が足りないため、当院では精密な再検査においては、定量(濃度)評価や尿沈渣の確認を行っています。尿中のクレアチニン(分母)で蛋白(分子)を割り算することで、1日の推算尿蛋白量を求めています。
なお尿蛋白が3.5g/日を超え、血清アルブミン値が3.0g/dLを下回ると、ネフローゼ症候群の診断となります。この状態は血液中の必要な栄養分であるアルブミンが大量に尿中へ漏れ出ていることになり、体液過剰や免疫力低下も引き起こすことがあり、腎臓内科での入院精密検査や、経皮的腎生検が必要となることが多い病態です。また尿沈渣では赤血球円柱や顆粒円柱といった、糸球体から漏れ出た異常構造を探し、慢性腎炎症候群の早期確認を目指しています。さらに血液検査では、免疫グロブリン(IgAなど)、血清補体、抗核抗体(ANCAなども)を測定し、隠れた免疫系疾患が無いかを検索しています。
慢性腎炎症候群の主な症状
- 明らかな肉眼的血尿
- 健診時の尿潜血陽性
- 蛋白尿(尿の泡立ちは無関係ではないのですが、必須ではない)
- 説明のつきにくい持続性浮腫(むくみ)
- 食事量は増えていないのに体重増加
- 難治性の高血圧
- 短期で悪化する高血圧
など
主な治療・検査
地域のかかりつけ医である当院では、尿検査や血液検査を主に用いて、最初のスクリーニング検査を行います。他院や健康診断、人間ドックの検査結果をお持ちになると、いつ頃から疾患が存在しうるかの推定を行いやすくなります。
なお、『エビデンスに基づくCKDガイドライン2023』による腎臓専門医への紹介基準を満たさない場合もあり、無症候性蛋白尿や無症候性血尿として、そのまま経過観察になることもあります。これは腎臓専門医の数が内科系では少なく、地域によって偏っているため、すべての腎炎スクリーニング検査を等しく行うのが全国的には難しいためでもあります。
また、糸球体由来と考えにくい血尿については、泌尿器科疾患の可能性が高くなるため、泌尿器科クリニックや、地域医療連携協力機関の病院へご紹介いたします。
- 食事や運動などの注意は、当院の「慢性腎臓病(CKD)」のページをご参照ください。
慢性糸球体腎炎の治療目的
慢性糸球体腎炎の治療は、炎症を抑えることと、糸球体の機能を保護することが主な目的です。免疫抑制剤や副腎皮質ステロイドの投薬、治療方法は複雑であり、個別の症例によって異なります。また免疫の長期抑制によって、普段はかかりにくいはずの感染症を発症したり、糖尿病や骨粗鬆症を誘発しうるなど、腎炎治療に伴うリスクにも十分な配慮が必要です。
内服としては、抗血小板薬あるいは高血圧の治療薬(ACE阻害薬やARBなどのRAS阻害薬)を組み合わせることがあり、さらに腎性貧血合併時はエリスロポエチン製剤やHIF-PF阻害薬を用います。これらには効果だけでなく副作用もまれにあるため、経験豊富な腎臓内科医の処方が望ましいものです。
そのほか、脂質異常症や高尿酸血症、代謝性アシドーシス(腎臓機能低下で酸性物質が体内に溜まりやすくなるため)、電解質異常(とくにカリウムと無機リンの上昇)に対しても、投薬治療を組み合わせています。